映画『シュトルム・ウント・ドランクッ』のDVD発売と舞台『走りながら眠れ』再演を記念して、両作品でそれぞれ〝大杉栄〟を演じた二人の役者・川瀬陽太さんと古屋隆太さんの特別対談をお届けます。

俳優としての2人の出会い

川瀬 僕、元々古舘寛治さんと付き合いがあって。それでサンプルの公演だったりとかで、映画『息衝く』で共演する前から古屋さんを勝手にこっちは見ていたんです。だから「ああ、あの人や」って思ってまして(笑)。

古屋 恐れ入ります(笑)。

川瀬 いやいやいや。

古屋 あのとき川瀬さんがどういう意図かわかんないんですけど、やけに「古屋先生、古屋先生」って言うんで、なんか恐ろしかったというか。

川瀬 僕ね、演劇をちゃんとやってる人は盲目的に奉るんです(笑)。

古屋 なにかそういう潰し方があるのかな〜みたいな(笑)。だって、あのとき、やっぱり川瀬さんはお忙しい方で、他の現場から徹夜明けで、電車で駆けつけていらっしゃって、「いや〜、寝てないんだよ」って状態で……。

川瀬 嫌な感じですね(笑)。寝てない自慢?

古屋 いやいやいや、全然。もっとさりげない感じで。見るからにもうね、お疲れの状態で、なんも言わないでだるくしてるのもアレだと思っておっしゃってたんだと思うんですけど。で、パッとこう、撮影のスタートの直前に、パッとこう気合いをお入れになって。本当にだから僕、すごいなって思ったんですよ。一球入魂で急にパッとこう演じられるのが。瞬発力というか。
だからそのとき川瀬さんご本人にも聞いたんですよね。「どういう感じでやってるんですか」って。そしたら引き出しをしっかり作っといてって、みたいなことをおっしゃってたと思うんですけど。僕は本当にすごいなって思ったんですよ、川瀬さんの役者としての持っていき方っていうのを拝見して。

川瀬 僕らのは突貫工事な感じですよ。こないだ一緒にやったのでわかったと思いますけど、その日に会って「こんにちは」でやること多いんで、成立のセオリーみたいな感じでやってしまうこともあって、そんなに褒められたもんではないんですけど。たしかに仕事を進める上で、効率的なやり方を探した結果、ああなってる感じはあります。もちろんそこには面白みっていうか、そういうことは考えてはいるんですけど。

古屋 だからたぶん確実にカメラが映し取るもの、映し取れるものというか、そういうものをご存じというか、計算されてやってるっていう感じがしたんですよね。ただやったところでそれが映りが悪いとかあるじゃないですか、映像の場合は。

川瀬 そうですね。

古屋 そこって僕はなんにもわかってなかったんで、拝見していて、確実にそういうものを持ってらっしゃるんだな、と。

川瀬 映画は……、極端な話すると、素人でもいいんですよ。変な話。映ってて、例えばその人が泣けないってなったら、(カメラを)すごく引いちゃって背中でやっちゃうみたいな。だけど、僕、青年団とかサンプルのお芝居見ててもそれを感じるんですよ。エモーショナルなことをあんまり出してこない。通常の生活でそんなことがそうそうないっていうか。そういう意味で、非常に映画的にフラットに見れるというか。そういう映画にすごく似てる演出方法もあるのではないかと思いながら見つつも、今の突貫工事的な現場ではできない、ある意味狭い空間の中での話が見ていられるっていうのは、僕は「ああ」って納得できる。

古屋 ありがとうございます。『走りながら眠れ』なんて特に2人だけで1時間20分ただ雑談してるだけなんで、本当に地味というか……。

川瀬 ふたり芝居っていうと構えるんです、僕。ひとり芝居でもそうなんですけど。その演者の自意識を見せられてしまうんじゃないかと本当に手前勝手な懸念があるんですけど。でも『走りながら眠れ』をDVDで見て、正直これは僕の好みなんですけど、カメラワークとか全然なくても、ポンと引きでいいな、と。そこの中に割りが見えるというか。芝居の中にそれが入ってるんだなぁと。勝手に僕は平田さんの意図として感じて面白く見たんですけど。

古屋 ああ、ありがとうございます。

 

『走りながら眠れ』(作・演出:平田オリザ)

「ただいま」「おかえりなさい」
社会主義運動の中で虐殺された、大正時代のアナキスト・大杉栄と妻の伊藤野枝。恋愛スキャンダル、幾度にもわたる投獄―壮絶な人生を辿りながら、どこまでも己を貫いた彼らの最期の2ヶ月を繊細に綴る、大人の会話劇。
1992 年に初演(於:こまばアゴラ劇場)を迎え、2011 年「平田オリザ・演劇展vol.1」で19 年ぶりに再演。圧倒的な存在感で魅せた古屋隆太と、彼と真っ向から向き合う芯のある女性を演じた能島瑞穂の共演で好評を得、DVD 化もされている。(平田オリザの現場25『走りながら眠れ』紀伊國屋書店より好評発売中)。2014年には東北4都市ツアーを成功させ、今秋より西日本を巡演予定。

大杉栄を演じるということ

古屋 大杉栄を演じるにあたってたいしたことはやってないんですけど……。『走りながら眠れ』はフランスから追放されて帰国してから死ぬまでの2か月くらいの間のうちの、この日とこの日とこの日……と数日を抜き出して描いてて。芝居に役立つ役立たないとは別に、せっかく実在の人物で、資料なんかも残ってるのでそういうのをちょっと読んでみると面白いんですよね、単純に。

川瀬 ええ、ええ。

古屋 あとはまあ、自分のというよりは相手とのなにかを共有してると、すごくやりやすいというか。ただセリフをやりとりする中ででも、お互いになにか共有している情報とかイメージがあると面白い、ということのために鎌田慧さんの『大杉榮 自由への疾走』や『大杉榮語録』とか読んだり。今回で4度目の再演なんですけど、忘れっぽいんで、10月にツアーで大杉栄が生まれた丸亀の近くの善通寺に行くから、もしなんか難しい質問されたらヤダなと思って、こないだ本屋に行ってまた本読もうかなぁと。

川瀬 理論武装しておこうと(笑)。

古屋 そうそう(笑)。『日録・大杉栄伝』とかいうのがあって、ずっと日ごとになにした、なにした、なにがあったっていうのが書いてあって。すげー、こんなのあったんだと思って。そんな感じですねぇ。

川瀬 大杉のことって、起きた事柄をもとに、家ではこんなんじゃないかっていうので作っていかれたんですよね?

古屋 内容がね、社会主義運動のことはほとんど出てこない。

川瀬 そうですね。

古屋 ファーブル昆虫記の翻訳ことと、旅の思い出話が基本なんで、大杉栄のほとばしる熱気とかそういうところはないです。

川瀬 一番気を抜いてるときですよね。本当に面白かったんですけど、時々どきっとする言葉を野枝さんは言うじゃないですか。「あなたが横にいると辛い」的な。僕のほうは真逆のほうで役どころとしては振られて。出るシーンもそんな多くないんです。
この映画に関しては、彼に心酔した純朴な子どもたちが作ったギロチン社っていう人たちのスットコドッコイな活動がメインなんで、幸徳秋水みたいな感じの、象徴的に出てくるみたいな感じだったんですよね。

古屋 僕、川瀬さんの大杉栄が登場したときに、「あ、大物がいよいよ現れた」みたいに感じて、さすがだなぁって思って。

川瀬 いやいやいや(笑)。

古屋 すごく伊達男っていうか、お洒落さんだったって記録もあるじゃないですか。

川瀬 そうみたいですね。

古屋 そのお洒落な感じとか、颯爽とした感じとかが川瀬さんが現れたところで感じて。

川瀬 本当は吃音だったって話があるじゃないですか。

古屋 ああ、それねぇ。

川瀬 カ行が特に。

古屋 そこね、僕も川瀬さんも特に吃音にしてなかったんで、ほっとしたんですけど。

川瀬 吃音はやりやりな人はやるかもしれないんですけど。あんまりもう、大杉栄じゃないじゃないですか。ぶっちゃけて言うと。そうすると途端になんか嘘が白々しいというか、自分の自意識が耐えられないっていうのもあるんですけど。やっぱり気にはなりましたよね?

古屋 そうですねぇ。これはどう処理するものなのか……。いや、もうなにもしないしかないだろう、と。

川瀬 映画の場合はもっと厚顔無恥に、「俺は大杉栄だ」って言ったら大杉栄になるしかないっていうのがあるんで、自分のそういう自意識はよいしょって押し込んでやっちゃうところはあるんですけど。でも古屋さんにも感じるんですけど、2人ともあんまり自ら手を上げてやりやりな感じではやってないんじゃないかなというところがあると思うんですよ。
というわけで、僕の場合はそれで言うと野枝さんも大事な、象徴的な感じで微笑んでいるような感じの女の人の像だったんで、ものを考えて発してるような感じではやってないっていうか。ギロチン社が行動に出るまでのきっかけみたいな感じでやってたんで、そういう意味ではあんまり無理はしてないし、“大杉栄を”っていうのはなかったですね。 だって、今回甘粕さんがあがた(森魚)さんで、ずいぶんお年を召した甘粕さんで(笑)。すべて、なんていうかファンタジックな内容だったんで、もともと山田(勇男)監督にも史実だけに捉われたくないってっていうのがあったんだと思うんですよ。

古屋 そうですね。

川瀬 この人個人への興味って、僕はどっちかと言うとこっち(『走りながら眠れ』の台本を差しながら)のほうに興味があって。没後にいろんな文献が出たりして「こんなこと言ったんだ」とか割とスキャンダルめいたことも含めて、面白い人だなぁと思うし、2人でいるときなに喋ってるんだろうって。だから『走りながら眠れ』で古屋さんの演じた大杉は面白かったんですよ。そうだよね、いつまでも気は張ってられないしっていう。特に土産話のところ。でもやっぱりどっかに緊張感はずっとある2人には見えましたけどね。お芝居の中で、見ていて。なんかやっぱり普通じゃいられない2人で。
あんまり「大杉栄を演じる」ってカギカッコ付で言うと、僕の中ではイケメンっていうか……あの、リア充って奴ですか。言いたかないけど。こんな言葉を使うのなんなんですけど。

古屋 リア充ですか。ああ、なるほど。

川瀬 かなり変わったリア充ではありますけど。

古屋 そうですね。あ、一応これアレなんですよ(『走りながら眠れ』の台本を開いて)、「男」「女」ってなっていて、だからそういう意味では大杉栄にあんまり縛られてしまったらそれはそれでちょっとこう、負けというか。それもイカンのじゃないかっていう。あくまで参考で。大杉栄と伊藤野枝は。ある男と、ある女の話っていうところも重きを置いているんですけどね。でもそっか、リア充って言われてみたら、相当満ち足りてますよね。

川瀬 満ち足りていてね。これまた聞きかじったような話ですけど、彼がそうやって洋行しているときに野枝さんももともと子育てがうまかった方ではなかったらしく、かなりやいやい手紙を出したりなんかしたら、手紙の返信が「もともと俺そんな奴だし、しょうがないじゃん」みたいなのをさらっと出せるところが、男前だなぁっていうかなんていうか、すごいなぁと。

古屋 そうですねぇ。

川瀬 没後出てきた話でしょうけど、みんなお金を貸したがり、みんな皮肉を言われたがるみたいな人って稀有ですよねぇ。そういう意味では本当、充実した人間の話で、生まれが軍属の子供でとか、コンプレックスや挫折なりなんなりがあったり、それこそ吃音であったりとかっていうよりは、僕はその後形成された大杉栄っていう人の面白みに惹かれていたような気がします。全力で間違えもするけど、他人にそれを擦りつけない人っていうか。みんながこっちだって言ってるときに真逆のほうにちゃんと走っていけちゃうのは俺には無理だなぁと。そういうにおいのする2人は見ていて、それは意図したことなのかわからないけれど、色気のある2人だなぁと。普通やっぱり子供が生まれたら、パパとか呼ぶようになったりとかして、どっか性のにおいがなくなる方向に行くもんだけど。

古屋 もともと大杉栄については割とご存じだったんですか?

川瀬 いやぁ、ギロチン社のほうですね、どっちかと言うと。大杉自体をそんなに知ってたわけではないです。ギロチン社の人たちが望んでいる大杉栄像をやるみたいな感じ。本当はこっちにあったりすると思うんですよ(『走りながら眠れ』の台本を差しながら)。うち帰ってきて、野枝と話しながら些細なことでケンカしたりとか。だから古屋さんとは全然アプローチが違うんですよね。平田(オリザ)さんからしたら一番興味がないところだと思う。

古屋 (笑)。

川瀬 それはね、本当にお二方の作家の違いというか。

映画『シュトルム・ウント・ドランクッ』

大正11年。中浜哲らは「ギロチン社」を結成、テロルを企てるも関東大震災が彼らを襲い、大杉栄も虐殺され…。 復讐を誓う「ギロチン社」だが――。
監督は寺山修司の天井桟敷出身・山田勇男。主演は劇団「少年王者舘」等で活動する中村榮美子と劇団「tsumazuki no ishi」主宰の寺十吾。ギロチン社メンバーに吉岡睦雄ら若手を配し、佐野史郎、流山児祥、あがた森魚らベテランと個性派・川瀬陽太が脇を固めた。天野天街、つげ忠男、ジンタらムータwith黒色すみれ、白崎映美、原マスミ、知久寿焼ら、演劇、漫画、音楽界からのゲストも異彩を放つ。
http://sturm-und-drang13.net/

川瀬 ツアーはどちらに?

古屋 伊丹、兵庫県と、香川県と、愛媛県。

川瀬 あら、いいなぁ。

古屋 ただ5演目のうちのひとつなんで、期間のわりにステージ数は少ないんですよね。

川瀬 ああ、そうなんですか。

古屋 全部で10ステージくらい。でも再演を続けているとだんだんセリフが骨肉化していくことがあって、飽きないというか。ただ、相手のセリフを別に聞かなくても相手を見なくても順番通りにセリフを出せようになってるから、オートマチックに順番でやらないようにっていうのは気をつけなきゃいけないところなんですけど。今回稽古していて、今までできなかったことができてるというか。前まではここ力んでたんだなぁ、一生懸命やってたんだなぁって。一生懸命しゃべるシーンもあるけど、普通日常会話って一生懸命じゃないから、そういう気づきはあります。

川瀬 こなれた上で段取り化しないようにしなきゃいけない、自分と慣れとの闘いみたいな感じじゃないですか。それも含めて面白いでしょうね。こんなに長く再演を繰り返していて…。本当、体には気をつけて。

古屋 ありがとうございます。川瀬さんにいろいろ伺うことができて、光栄です。

川瀬 いやいやいや(笑)。

古屋 いや本当(笑)。ありがとうございました。

 

プロフィール

古屋隆太

1971年12月31日生、埼玉県出身。 1999年、劇団青年団入団。劇団サンプルには、2007年の立ち上げ時より参加。物腰柔らかな雰囲気と時折覗かせる暴力性が共存した、底の見えない演技で存在感を発揮している。出演舞台の城山羊の会『トロワグロ』(作・演出:山内ケンジ/2014)、サンプル『自慢の息子』(作・演出:松井周/2010)が岸田國士戯曲賞を受賞。フランス人演出家との仕事も多い。また、『愛のむきだし』(監督:園子温/2009)、朝日新聞「プロメテウスの罠」の全話ナレーション(2014~2015)など、映画・テレビ・CMにも活動の場を広げている。『走りながら眠れ』では2011年の再演以降、大杉栄役をつとめる。

川瀬陽太

1969年神奈川県出身。1995年、映画『RUBBER‘S LOVER』(福居ショウジン監督)で主演デビュー。瀬々敬久監督をはじめピンク映画で活躍。現在も自主映画から大作までボーダーレスに活動している。主な作品は『サウダーヂ』(監督:富田克也/2011)、『超能力研究部の3人』(監督:山下敦弘/2014)、『クローバー』(監督:古澤健/2014)、『ジョーカー・ゲーム』(監督:入江悠/2015)、『さよなら歌舞伎町』(監督:廣木隆一/2015)、『乃梨子の場合』(監督:坂本礼/2015)、『ローリング』(監督:冨永昌敬/2015)、WOWOWドラマ『贖罪の奏鳴曲』(監督:青山真治/2015)、『64』(監督:瀬々敬久/2016)など。

公演・発売情報

『走りながら眠れ』

「平田オリザ・演劇展vol.5」にて上演
チケット好評発売中

  • 伊丹公演 2015年10月9日(金)~12日(月・祝) AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
  • 善通寺公演 2015年10月16日(金)~18日(日) 四国学院大学ノトススタジオ
  • 松山公演 2015年10月21日(水)~22日(木) シアターねこ
  • 東京公演 2015年11月5日(木)~18日(水)   こまばアゴラ劇場

【詳細・チケット購入ページ】
http://www.seinendan.org/play/2015/03/4470

『シュトルム・ウント・ドランクッ』

<2014 年/138分/カラー/16:9/HD/3.0ch ステレオ>
2014年8月、渋谷ユーロスペースでの劇場公開とアンコール上映を皮切りに、名古屋、大阪、京都、札幌、仙台での全国公開を経て、2015年7月に待望のDVD化。
2015年11月、ドイツでのイベント上映が決定している。
現在、DVDがAmazonほかネットショップ、全国DVD取扱店舗にて好評発売中!

●DVD封入特典
シュトルム・ウント・ドランクッ用語集(12P)
劇場版 宇野亜喜良ポストカード *限定数
●DVD映像特典
メイキング(37分)、山田勇男/中村榮美子/寺十吾インタビュー(18分)
劇場予告編2種(3分)

【販売ページ(Amazon)】
http://www.amazon.co.jp/dp/B00Y3PS10O
【映画最新情報】
http://sturm-und-drang13.net/?page_id=105

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